嫁と過ごす楽しい休日
 〜いじわる編〜



   寝る前に友達から借りていた「着信アリ」を見た。
俺にしてみたら、そう怖いもんでもなかったのだが一緒に見ていたLは
こういうものが苦手なのか、俺にくっついたままプルプル震えていた。
「怖いの?」と尋ねると「苦手なだけです。」と返ってくる。
それ、意味同じじゃねーの?と思いつつも俺は敢えてつっこまなかった。
強がっている姿もかわいい俺の嫁である。
 映画を見終わって怖がるLを宥めて、よく眠れるようにと夜の営みを3回ほど致した。
ワタリさんに、ゆっくり休ませるようにと云われていたが、
久しぶりなのだから頑張っても仕方ないだろう?
俺に触れられたLは、いつものように気持ちよさそうに、いい声で鳴いた。
また風呂に入り直すのが面倒だったので、中田氏はやめて適当に処理する。
朝にシャワーでも浴びればいい。
そうして、俺とLは抱き合ったまま眠りについた。




 どのくらいの時間が経ったのだろうか。
俺は、くいくいとシャツを引っ張られる感覚で目を覚ました。
「……?」
 辺りはまだ暗く、目が慣れるまで俺はウロウロと視線を漂わせる。
と再び、くいっと引っ張られる。何だろうと思い、横を見るとLが真っ黒な瞳で
じっと俺の顔を伺っているではないか。
「どうした?」
 声をかけると、Lはちょっと云いにくそうに睫毛を伏せた。
「あの……、」
「うん?」
「……トイレに…行きたいんですが……、」
 一瞬、思考が止まった。
「……えっと、」
「……。」
「怖い、のか?」
「……違います。」
「じゃあ、ひとりでもいけるよな?」
「……嫌です。」
「なんで?」
「……、」
 追求すると、Lは微かに眉を顰めて俯いてしまった。
やっべぇ、かわいい…。俺は「ごめんごめん、」と云いながら、Lの頭を撫でた。
「一緒に行ってもいいけど、その前に俺の話し聞いてくれるか。」
「…何ですか?」
 訝しげに首を傾げるLに、俺はニヤリと笑って話し始めた。
「ある男が仕事の関係でホテルに泊まった。仕事は快調に進んだし、夕食も取った。
あとは休むだけだ。そんな折に、部屋に設置してある電話がプルルルル…と鳴った。」
「あの……、」
「男はフロントからだろうか?と思いながら電話に出た。すると、受話器口から
『もしもし、ぼくチャッピー。今から、そっちへ行くね。』と小さな男の子のような声がする。
間違い電話だと思い注意しようとする前に、電話は切れてしまった。
男はちょっと気分を悪くしたが、酒を飲んですぐに機嫌を直したんだが、
あれから10分ぐらい経ってからだろうか。再び、電話のベルが鳴ったんだ。」
「……、」
「電話に出ると『もしもし、ぼくチャッピー。今、ホテルの前にいるよ。』と
先刻の子供からだった。同じように、すぐ切れてしまったので、
やっぱり男は何も云えなかった。それから、また5分経った頃、電話が鳴った。
『もしもし、ぼくチャッピー。今、ホテルの1階にいるよ。』そして、また5分後
『もしもし、ぼくチャッピー。今、ホテルの2階にいるよ。』……。」
「やめ……、」
「男は段々、腹が立ってきた。文句を云おうにも、電話は一方的に言葉を伝えては
すぐに切れてしまう。痺れを切らした男はフロントへ電話するために受話器を取ろうと
したが、それより先にまたベルが鳴った。受話器越しには、やっぱりあの声……。
『もしもし、ぼくチャッピー。今、ホテルの3階にいるよ。』…電話が切れて、
男はすぐにフロントに電話をかけたが、何度やっても繋がらない。また、電話が鳴る。
『もしもし、ぼくチャッピー。今、4階にいるよ。』
『もしもし、ぼくチャッピー。今、5階にいるよ。』
男は少し怖くなって、電話の回線ごと引き抜いた。これで、やっと安心したと思った矢先、
プルル…プルルル……切れたはずの電話のベルが……。」
「やめ……やめてください…っ、」
「『もしもし、ぼくチャッピー。今、6階にいるよ。』
『もしもし、ぼくチャッピー。今、7階にいるよ。』
『もしもし、ぼくチャッピー。今、8階にいるよ。』……。
――逃げなければ。男はそう思った。けれど、電話の主は間違いなく男のいる部屋の
すぐ下の階まで迫ってきている。逃げるには遅すぎた。また、電話のベルが響く。
『もしもし、ぼくチャッピー。今、あなたの部屋の前にいるよ。』」
「ほんとに…やめ……!」
「男は思わず、その場に崩れ落ちた。もう逃げられない。やつは、すぐ側まで来ている。
総毛立つような恐怖が男を襲った。あまりのことに蹲っていると、
もう何度目かも忘れてしまった電話がまた鳴った。男は震える手で何とか受話器を取る。
ぼくチャッピー。今、君の後ろにいるよ。』」
「……っ!」
 ブルッとLの身体が震えた。あれ?と思って俺は、Lの顔を伺いながら声をかける。
「…L?」
 呼んでも返事はなく、何か様子がおかしい。と、俺は小さな違和感を感じて
被っていた毛布をバサリと捲った。そこで、一気に事情を悟った俺は、
未だ縮こまってプルプルと微かに震えているLを再び見た。
「――すまん、L!!」
 俺はガバッと頭を下げると、そのままLを抱え上げた。
そのまま、バタバタと風呂場に駆け込む。Lは終始、俯いたままで何も喋らない。
当然だ。ちょっとばかり、いたずらが過ぎた……。









  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 汚れた下着とパジャマ、シーツは洗濯機に突っ込んだ。
ベッドに予備のシーツを敷き直しながら、ちらりと部屋の隅を見ると
俺のシャツだけを羽織ったLが背中を向けて蹲っている。
 そういやトイレに行きたくて俺のこと起こしたんだったよな……。
トイレ行きたいのと怖いのが相まって、思わず粗相しちゃったんだよな……。
ここまでやっといて何だが、本当に悪いことをしたと思っている。
だって、そんなに切羽詰ってるとは思ってなかったし、ここまでビビられるとは正直……。
 シーツを敷き終わって、俺は再びLの方を見た。
「おーい、L〜…Lちゃ〜ん……、」
「……。」
「あのー…ごめんなー…? 何つーか、本当にマジでごめんなー…?
ちょっと今回のは俺も調子に乗りすぎたっていうか何だ…とにかく悪かったよ。マジで。」
「……。」
「な〜、える〜……ごめんって〜…。」
 幾ら謝っても返事はない。いや、当然のことだと思う。ご立腹されても仕方ない。
けれど、このままでは本気で埒が明かないし、とりあえずLを寝かしつけなければ
後からワタリさんに何を云われるかわかったものじゃないのだ。
「――なあ、L。お前、今の状態でひとりで寝れるのか?」
 Lの肩が微かに揺れた。
「許してくれなくてもいいよ。けど、何つーか…ひとりで寝るのってアレだろ?
ベッドもひとつしかねーし……、もう何もしないし寝るだけだから、」
 少しだけ振り返って、Lは懐かない猫みたいにちらりと俺の方を見た。
「――ごめん。だから、こっちおいで?」
 しばらく考えるように俯いてから、Lはのそのそとベッドの上に戻ってきた。
相変わらず不服そうな顔をしたまま、ぱふ、と俺の横に寝転がる。
俺は予備の毛布をLにかけて、ぽんぽんとその肩を軽く叩いた。
すると、僅かだがLが俺の方にもぞもぞと擦り寄ってきたので、そのまま抱きしめる。
「ごめんな、L……。」
「……、」
 ぎゅう、とLを胸の中に押し込めて俺は罪悪感と幸福感を同時に味わいつつ、
ゆっくりと眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

実は「着信アリ」見たことない。
エロがない代わりにおもらしさせるって、どうなんだろうな。

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