嫁と過ごす楽しい休日
 〜マターリ編〜



   そう広くもない浴槽。ぬるま湯じゃないと一緒に入ってくれないので
湯加減はそんな感じで、それでも微かにたつ湯気の向こうにLのうなじが見える。
「相変わらず細っせぇな。あんだけ甘いもん食ってるくせに。」
「体質ですから。」
「体質で済ますなよ。本当は今だって、ちゃんとした飯食って欲しいと思ってんだからな。
ワタリさんに『無理ですよ。』って云われたから黙ってたけど。」
「……。」
「……あー、悪かったよ埒のあかない話して。けど、忙しそうだし寝てないだろ?
俺が心配になってもしょーがねーだろ。」
 そう云って、後ろからLをぎっと抱きしめた。そうそう、この抱き心地。
そう長いこと離れていなくても、触れる度に懐かしさを感じる。
シャンプーをしたばかりの濡れた髪からは俺と同じ匂いがするはずなのに、
それは幾分甘い。いい、匂い。
「……心配おかけして、すみません。」
「謝らなくていいけどさ……こう…折角いい抱き心地なんだから、これ以上は
痩せて欲しくないっつーか。つーか、何でお前はこんなにいい匂いがすんだ…。」
「自分の匂いはわかりませんから……あと、何か背中に当たってるんですが。」
「風呂場は嫌か?」
「のぼせてもいいのならご自由に。」
「じゃあ、浴槽から出てやればいいじゃん。そしたら、のぼせないぞ。」
「……何で、こんなところでやりたいんですか。」
「ばっか、お前。好きな子の裸を目の前にして勃たない男なんて男じゃないぞ。」
「わかりませ……っん、」
「なー、L−。」
「……どこ触ってるんですか。」
「おっぱい。」
 きゅ、と色づいた乳首を摘むとLはピクンッと身を硬くさせた。
別に淫乱だとか尻軽いわけじゃないんだよな。
ただ、人よりちょっと感じやすいだけなんだ。
俺に触られると堪えられないってだけなんだよ、Lは。うん。
「……本当に…のぼせます……、」
 熱くなった吐息で囁かれて、俺は仕方なく手を離した。









  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 家に戻ってきている時、Lはよくテレビを見ている。
普段、忙しくて見ている暇なんてないのだ。つけっぱなしになっているテレビ画面の
目の前に陣取って、パピコをちゅーちゅーしながら体育座りをしている。
剥き出しになった膝小僧が、ほんのりと赤い。
「こら、髪ちゃんと拭けって。」
 俺は云いながらLの後ろに膝を立て目の前の黒髪を白いタオルで、わしわしと拭く。
Lはテレビが見えないのが不服なのか、いやいやと愚図った。
子供かよ、と嘆息しながら俺もつられてテレビ画面を見た。
学校のプールらしきところに、少年達が並んでいる。
そういえば、今日はウォーター●ーイズやるってテレビ欄に書いてあったっけ。
「面白いか?」
 尋ねると、Lはちゅーちゅーしたままコクンと頷いた。
しょうがねぇなぁ、と思いながらタオルを投げ出してそのまま座り込むと、
コテンとLが俺の胸に寄りかかってくる。洗い立ての髪が当たって、こそばゆい。
「……これ、映画ですよね。」
「ああ。すごい人気あったな。ドラマにもなったんだ、去年。そんで今年は2もやるって。」
「そうなんですか。」
「でも、2って大体がコケるんだよな。キャストも見たけど、よくわかんねーし。
去年のはすっごい人気あって、職場でも話題になってたんだけどな。」
「そういうものですか。」
「Lは映画とか見ないのか?」
「ほとんど見ません。時間がないので。」
「映画館とか、行ったことねぇの?」
「ないです。街中に出たことが、あまりないので。」
 ああ、そうだっけ。俺は改めてLの特殊さを思い出した。
そういえば以前、買い物で寄った際に近くにあったクレープ屋にものすごい興味を持ってて
買ってやったら「お皿に乗ってないクレープを食べるのは初めてです。」とか
云ってたもんな……。それだけ、世間離れしているやつなのだ。
別に悪いわけじゃないけど、人並みの楽しみを知らないのは何だか不憫な気がして。
大きなお世話かもしれないけど、一時でも自分の立場を忘れて無防備に甘えて欲しいと
そんなことばかり考えてしまう。
かわいいかわいい俺のL。手のかかる俺の嫁。
「面白いですね。」
 やわらかく笑って云うLに「うん。」と答えながら、俺はやわらかいパジャマの生地と
ひんやりとした肌の感覚にぼんやりとしていた。
「ん、パピコなくなったか?」
「はい。」
「ハーゲンダッツあるぞ。食うか?」
「はい。」
「……L、どかないと取りにいけないぞ。」
「じゃあ、後ででいいです。」
「何、そんなに俺と離れたくないの?」
「……、」
「返事しないといいように解釈するぞ、こら。」
 すると、Lはくるりと振り返って俺の胸にぽて、と頬をくっつけた。
言葉はないが、ちょっと照れていることくらい雰囲気でわかる。
 ああ、かわいいなもう…何でこんなにかわいいのかよ。
「Lと云う名の宝物〜……、」
「……何ですか、その歌。」
「気にすんな。お前はテレビに集中してればいいから、」
 苦しくないようにやわらかく抱きしめ返して、
素直に甘えてくる嫁のかわいさをしみじみと実感した。

 

 

 

 

 

 

 

 

さくらんぼ聞いてウォー●ーボーイズ見ながら書いた。(バリバリに影響受けてるな…)
Lと俺の和やかな土曜の夜。

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