嫁と過ごす楽しい休日
 〜お迎え編〜


   カチャリとドアが開いて、いつものように松田が顔を覗かせた。
そして、その後ろに立っている男を月は凝視する。
今までに見覚えのない顔。パーカーにジーンズというラフな格好。
年齢的に二十代前半から半ば辺りか。父達と同じ警察官には見えなかった。
「お連れしましたよ、竜崎。」
 松田が部屋の奥に向かって声をかける。一緒に来た男は自然な素振りで、
「こんにちは。」と挨拶をした。総一郎と相沢が慣れたように挨拶を返す。
ここに出入りが出来るということはキラ事件の関係者なのだろう。
幾ら普通の格好をした若者といえど、Lの仲間となると油断は出来ない。
こうやって、ここに呼ばれてLの信用を得ているぐらいだ。
どれほどの能力を秘めたやつかもわからない。けれど、逆に自分のように疑われて
呼ばれているという可能性もある。
 一体、こいつは……。
月が訝しげに男の顔を再び見るのと同時にLの声がした。
「……約束より30分も早いのですが。」
 Lはバツが悪そうな顔で男を見た。けれど、男の方はというと逆に嬉しそうに
にっと口許で笑う。それから、男はLの前まで近寄ると、Lの口許に手をやった。
「チョコついてるぞ。何食ってたんだ?」
「ブラウニーを……それより、質問に答えてください。」
「そんな、プリプリすんなよ。これでも我慢したんだぞ。車の中で20分待った。」
「何で時間通りに来ないんですか。」
「お前を連れて帰れるのに待ってられるか。」
「まだ書類の整理が――、」
「あ、自分がやっておきますよ。」
 唐突に松田が手を上げて朗らかな声で云った。
空気を壊すことにかけてはスペシャリストなだけある。
それに続いて、今度は相沢が声を上げた。
「いいじゃないか、竜崎。折角、迎えに来てくれたんだから。」
「そうですよ、竜崎。捜査本部の方は大丈夫ですから、ね?」
 松田が総一郎に次の言葉を促す。ソファに座ったまま、総一郎はL達の方を見た。
「ああ、大丈夫だ。何かあったらすぐに連絡するから、行ってきなさい。」
 後押しするような発言の数々に、Lは小さくため息をついた。
月には何がなんだかわからない。Lが出掛ける? この男と? 何処に?
 男は笑って、Lに代わり「ありがとうございます。」と礼を云った。
松田がパタパタと大き目のトートバッグを持ってきて、男に手渡す。
「これ、ワ…っじゃなくて……持たせるようにって頼まれたやつです。」
「ああ、聞いてます。すいません、わざわざ。」
「いえいえ。ゆっくりしてきてくださいね、竜崎。」
「……明日の午後には戻ります。」
 Lは目の前のやりとりに、諦めたように呟いた。


 ドアが閉じてしまってから、月は取り残された気分で松田の方を見た。
こいつに聞くのは何となく不愉快だが、この際仕方ない。
月は松田に事の詳細を尋ねた。
「竜崎は本部では一切、眠らないんです。というか……リラックス出来ないんでしょうね、
どうしても。だから、こうして定期的に休息を取りに行くんです。」
「ふぅん……。それで、彼は?」
「あの人は、竜崎の旦那さんです。」
「……どうしたんですか、松田さん。日本語喋れてませんよ。」
「えっ、ちゃんと喋れてますよ? あの人、本当に竜崎の旦那さんですもん。」
 助けを求めるように月は総一郎と相沢の方を見た。
と、ふいと目を逸らされる。月は驚いた。リュークが後ろで「Lって面白!」と云っているが
もはやそれでころではないほど、驚いていた。







  ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・


 ホテルのロビーを歩きながら、俺は横にいるLに目を向けた。
こいつに会うのは2週間ぶりぐらいだろうか。心なしか、また痩せた気がする。
「ちゃんと食ってんのか……って、お前に聞いても無駄か。」
「きちんと食べてます、三食とも。」
「今日のメニューは?」
「朝はメープルシロップのパンケーキとコーヒー、
昼はガトーショコラと苺のミルフィーユを食べました。」
「残さず食べたか?」
「はい。」
「それならまあ…いいか。――ところで、捜査員に新しい人がいたな。
何か、ジャニーズみたいに若くて顔がいいの。」
「ああ、月くんですか。彼は局長の息子さんなんです。」
「……似てないな。」
「怒られますよ。」
「いい男だったからなぁ。お前のこと、じっと見てたし。好かれてんじゃねぇの?」
「逆だったら有り得そうですけどね。」
 Lはにべもなくそう云った。とりあえず、浮気とかそういった類の痕跡はないらしい。
まあ、Lがそんなことをしないやつだとはわかっているんだが、
根がチキンなものでどうしても気になってしまうもので。
「……一応、ミスド買ってあるけど他にいるものは?」
「大丈夫です。ワタリが色々と持たしてくれたようですし。」
「電話あった。相変わらずだな、あの人。ゆっくり休ませるようにって釘刺された……。」
 ホテルの玄関を出る。すぐ側に停めてある愛車の助手席のドアを開けた。
Lは素直にそれに乗り込む。
「――まあ、折角の休みなんだからゆっくりしてろよ。俺が何でもやってやるから。」
 最高な気分でそう云って、俺は助手席のドアを閉めた。
ままごと以下の俺とかわいい嫁の休日は、まだ始まったばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

何か自分で読み返して腐の匂いを感じた…。今更か? でもスマソ。
きゅるるんkissでジャンボ♪をエンドレスで聞きながら書いた。だからかな。(うん)

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