Lに栗羊羹を食べさせるテスト


  「……意味がわかりません。」
 青年は押し殺した声で呟いた。


 薄暗い部屋、散乱した衣服、沢山皺の寄ったシーツの上。
立ち昇る空気は、行為が始まったことをわかるには充分なほど濃厚で
俺は手の中のものを、ポンと持ち替えて再びLを見た。
「簡単なことだよ。これを舐めればいいんだ。」
 差し出したのは、ひとつの栗羊羹。昨日、実家から送られてきた甘い和菓子だった。
「食べる…じゃないですか? 普通。」
「食べるだけなら誰にでも出来るじゃん。」
「栗羊羹が嫌いな人は食べられませんよ。」
「つーか、お前甘いの大好きじゃん。」
 屁理屈をこねていたLの唇が閉じた。もはや、まともな言語が意味を成さないことを
悟ったらしい。俺は満足そうに、うんうんと頷いた。
「まだ食べちゃダメだからな。やわらかいんだから、歯も立てるなよ。」
 そう注意してから、俺はLの前に栗羊羹を突きつけた。
Lはおずおずと顔を近づけると、栗羊羹の端にはむっと口に銜える。
「ん……、」
 ちろちろと舌を使って、Lは丹念に栗羊羹を舐めた。
こんなものをフェラされている羞恥心こそはあるものの、それほど嫌そうではない。
いつも自分のものをフェラさせている時は苦味に顔を歪めているというのに、
まあ性器と和菓子ではものすごい差があるだろうが。
とりあえず、ここのところは顔を歪めているのが可哀想になって、ハチミツやら
チョコソースやらコンデンスミルクやらをトッピングして舐めさせている。
 しかし、栗羊羹は俺の性器ではない。こんなものをフェラらせたとしても、
実際俺にとっては何のプラスにもならないだろう。まあ、視覚的な興奮は得られるが
身体に対する快楽にまでは繋がらない。
 ――けれど、俺には考えがあった。何というか、カッコよく云えばフェティシズムというか
マニアックというか変質的であるというか。
云えるのは、普通に暮らしていればこんな考えが浮かばないだろうということだけだ。
 栗羊羹が、Lの唾液にまみれてぬるぬると光る。
やわらかい素材の所為か、角は解けてしまい丸みを帯びていた。
甘ったるい餡の匂いが鼻腔をくすぐる。
「もう、いいよ。」
「ん…ふ……、」
 やさしく云うと、Lは名残惜しそうに栗羊羹から離れた。
「これ、うちの実家の近くにある和菓子屋の栗羊羹なんだ。美味いだろ?」
「……はい。」
「――食べたい?」
「……、」
「食べたい?」
「……はい。」
 Lが、すぐに返事をしなかったのは警戒しているからだと俺はわかっていた。
でも、そんなのは無駄だ。警戒したろうがしなかっただろうが、
俺が事を遂行するに何ら変わりはない。
「そうか、食べたいか。」
 俺は、にっこりと笑ってLの肩をガッと掴んだ。
ぐいっと前の方に引き寄せると、Lの身体は前屈みに倒れこむ。
俺は自分でも驚くくらいの俊敏さで、Lの尻を掴んだ。
「!?」
 驚いて逃げ出そうとするLを俺は渾身の力で引き止めた。
右手に持った栗羊羹を、ぐいぐいとLの中に突っ込む。
「っひ…!? なっ、やめ……ッ!!」
「食べたいって云ったじゃん。」
「そんなところに……!」
「…お、飲み込んだ。やっぱり下の口も甘いの好きみたいだぞ。よかったなー。」
「……っや、」
 予めLの中をほぐしておいたのがよかったのか栗羊羹はずぶり、とLの中に埋まった。
くりっと入れたまま回転させると、Lの身体がびくんっと跳ねる。
「っ…いや……抜いてくださ…っ、」
「気持ちよさそうだから、却下。」
「……んぅ…っ、」
 栗羊羹が壊れないように、可能な限り動かす。
Lはひくんひくんと、初めて挿れられたものに戸惑いながら喘いだ。
餡とLの体臭が混ざって、とても甘い。
「――うまいか?」
 尋ねると、Lは観念したようにこくんと頷いた。
かわいかったので、太腿の付け根にキスをしてやる。
ぴくん、と震えた。L本人は認めないが、ここにキスされるのが好きらしい。
くいっと栗羊羹を引き出すとLが耐え切れなくなったように、俺のシャツを掴んだ。
俺の顔を手繰り寄せて、ねだるようにキスしてくる。
「…っもう、こんなんじゃ……っ!」
 ――イケないもんな?
 俺は心中で呟いて、笑った。やはり栗羊羹は和菓子である。人をイカせるための
道具ではないのだ。それだけでは限界がある。
俺は栗羊羹が崩れないように、ゆっくりとLの中から引き抜いた。
「っ……、」
 引き抜いた栗羊羹は、それはもう言葉にも出来ぬほどの卑猥さだった。
これをLに見せるのはさすがの俺でも、ちょっと気が引ける。
俺は、そのままその栗羊羹をゴミ箱に入れた。
 すまん、栗羊羹よ。そして、ありがとう。後できちんと処理するから待っててくれ……。
そんなことを思いながら、俺はLに後ろから覆いかぶさった。
甘く溶けたLの中に、俺の猛ったものを挿し込む。
「っ…あ……!」
 こういうプレイもかなり悪くないと思いながら、そのまま俺はLの中で果てた。
栗羊羹を送ってくれた、母に感謝しながら――。







 行為が済んでLの中に出した俺のものを処理した。
その間中、ずっとLは無言で俯いている。さすがに怒っているらしかった。
まあ、当然だろう。あんなプレイをさせられれば。
 俺は嘆息して、冷蔵庫を開けた。これも同じく実家から送られてきたものだ。
予め冷やしておいたものを取り出して、未だベッドの上で拗ねているLの前に置く。
「水羊羹、食う?」
 云うと、Lは返事もせずに置かれた水羊羹を手に取った。
ぺりぺりと蓋を剥がして、水羊羹を食べ始める。
(こいつ、もしかして羊羹が食いたくて拗ねてただけなんじゃ……)
そんな一抹の不安を感じながらも、もくもくと水羊羹を食すLの頭を撫でた。
「うまいか?」
「…………はい。」
 小さく返事をするLに、ほっと息をつきながら俺は彼の唇の端についた
水羊羹の欠片を拭った。

 

 

 

元ネタ→358神「ようかんの歌」(すみません、色々すみません)

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