801じゃない月Lを書いてみるテスト


   ピカピカと悪趣味に光るネオンを、ぼんやりと見上げていた。
辺りはまだ薄暗く、思っていた以上に人通りも少ない。
早朝の冷え冷えとした空気に身を竦めると、バサリと何かが覆い被さってきた。
見覚えのあるジャケットは、昨日から月が身につけていたものだった。
会計が済んだのだろう、Lの方に向かって歩いてくる。
「何か見てて寒いから、それ着て。」
「はぁ、どうも。」
 ふ、と息をつく月の後ろにある建物から二人は先程出てきたばかりだった。
小奇麗なブティックホテル……というと聞こえはいいが、まあ詰まる所はラブホだ。
そこから二人揃って出てきたというのだから、話は早いだろう。
「――初めて入りました、ああいうとこ。」
 Lがポツンと呟く。好奇心旺盛な彼はホテルの中でも物珍しそうにウロウロと
部屋の中を見て回っていた。何度か来た事のある月は、空気読めよと思いつつも
彼を好き勝手にさせて最終的には目的も果たした。
 どうしてこんなことになってしまったのかは、ほぼ憶えていない。
何というか勢いというかノリというか、そういうどうでもいい理由だ。
若いうちにしか出来ないことだってあるのだ。そう思うと無理やりにでも納得できる。
それに一番驚くべきことは、お互いがその行為に嫌悪感を抱かなかったことだ。
拍子抜けするくらいあっさりと繋がって果てた。
こんなに簡単なものなのだろうかと苦笑してしまう。
まあ、この二人だったからというのもあるだろうが。
 東の空が薄っすらと白み始めるのをビルの合間から眺めて、月は口を開いた。
「何か食べて帰ろうか。晩飯も食べ損ねたし。」
「そうですね。」
「この時間だからファミレスぐらいしか開いてないけど、」
「構いません。」
 淀みなく返事をしてLは月の横に並んで歩き出した。
月でも大きめなジャケットは痩せ型なLが着ると、更にぶかぶかした印象を受ける。
手足が長いので袖口からきちんと手が出ているのは気に入らないが
月はそう悪い気分でもなかった。それほど寝てもいないが、頭もすっきりしている。
「流河、眠くない?」
「大丈夫です。」
「…今日、僕たぶん大学サボると思う。」
「じゃあ、私も行きません。」
「……。」
「なんですか、」
「いや……流河、もしかして僕のことすごい好きだろ。」
「嫌いです。」
 ――即答しやがった。月は思わず秀麗な顔を歪める。
そんな彼の反応を楽しむように、Lはひょいと月の顔を覗き込む。
「でも、セックスは巧いと思いました。」
 予想外の言葉に月は返答に困った。まあ一応、誉められているのだから
ここは礼を云っておくのが無難だろう。「どうも、」と一言だけ返した。
「――キスは下手ですけど。」
 間髪入れずに呟かれた言葉に、月は今度こそムッとした。
立ち止まって、Lの方に向き直る。
「ケンカ売ってんの?」
「思ったことを口にしただけです。」
「ムカつくんだけど。」
「そう云われましても、」
 本格的にカチンときた。ぐいっとLの胸倉を掴む。
掴まれた本人はいつもと変わらず、じっとあの目で月を見返した。
(――Lの癖に、)
 月は自分のことを冷静な人間だと思っている。
だから気がつけば行動に移していた、なんてことは今までほとんどなかった。
本当にLと対峙してからペースを乱されっぱなしというか何というか。
気づけば、月は確実にLの唇を捕らえていた。
「……っ、」
 唇をこじ開けて舌を滑り込ませる。歯列をなぞるように舐めあげて、
探し出したLの舌に自分の舌を絡めた。
「ふ……、」
 喰らいつくみたいに口腔を犯す。子供染みているとわかっているけれど、
こいつに負けるのは嫌だから――。
仕上げに唇の端を吸ってから、やっと解放した。
時間にすれば三十秒ほどだったかもしれないが、それよりもっと長く感じる。
Lは少しぼうっとした目で、口許を拭った。
「先刻の言葉、撤回しなよ。」
 云うと、Lは我に返ったように月を見て、それからまた目を逸らした。
「嫌です。」
「負けず嫌いだな、流河は。」
「そんなんじゃありません。」
「子供みたいだ。」
 自分も人のことを云えた義理ではないけど。
とりあえず、思い出したように辺りを見回して人がいないことを確認する。
今更だとは思ったが、幸い誰もいなかった。
 何だか急に疲れが押し寄せてきた。うん、と背伸びをする。
「……夜神くんの方が子供だと思います。」
 まだ云うか、と思って振り返って見たLの顔が何となくいい感じだったので
月は思わず口許を弛めた。
「甘いものばっか食べてる奴に云われたくないね。」
 笑いながら云って、月はLの手を取った。困惑した視線が月を見つめる。
「――次の曲がり角まできたら、放すよ。」
 振り返らずに答えて、月は歩き出した。

 

 

 

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