ご主人様と子猫のえる


   あるところに大きなホテルの最上階に住む、えるという子猫がいました。
子猫は真っ黒な大きな瞳をしており、生まれつき他の猫よりも
身体がひとまわり小さくて華奢でした。
けれど、えるはとても賢くてきれいな毛並みの猫でした。
ご主人様は、そんなえるをとってもかわいがっていましたし、
えるもやさしいご主人様がだいすきでした。


「それじゃあ、行ってくるからね。」
 ご主人様はそう云うと、よしよしとえるの頭を撫でました。
これからご主人様はお仕事に出かけるのです。その間、えるはひとりぽっちで
お留守番をしていなければなりません。ひとりぽっちがどんなに淋しいか知っている
えるは、それでも「行かないで」とは云えませんでした。
だって、ご主人様はご主人様とえるのために働いているんですもの。
そんなワガママを云って困らせるわけにはいきません。
えるの心情を察したのか、ご主人様はえるの小さな身体を抱き上げました。
「帰りにプリンを買ってくるから、大人しく待っているんだよ。」
 そうしてご主人様は、ちゅっとえるのおでこにキスをしました。
えるはうれしくなって、お返しにご主人様のほっぺをぺろぺろと舐めます。
「くすぐったいよ、える。」
 ご主人様は笑いながら、名残惜しそうにえるを床の上に下ろしました。
「いいこでいるんだよ。」
 そう云って、ご主人様は部屋を出て行きました。
一匹で取り残されたえるは、ドアの前にぺたんと座り込みました。






 もうどれくらいそうしていたでしょうか。
えるはパチリと目を開けました。どうやら、えるはあのままドアの前で
眠ってしまっていたようでした。顔を上げるとやさしいご主人様の顔が見えます。
えるは、いつの間にかご主人様の膝の上にいました。
「おはよう、える。」
 微笑んで云うご主人様に、えるは「にゃあ、」と鳴きました。
「俺が出掛けた時のまま、あそこで待ってたのかい?
嬉しいけど俺がいない間、えるは自分の好きなようにしていいんだよ。」
 えるは、じっとご主人様をその黒い大きな瞳で見上げると
また「にゃん、」と鳴いてご主人様の胸にすりすりと頬を寄せました。
ご主人様は、そんなえるを愛しそうに撫でます。
「そうか、そんなに淋しかったか……。よしよし、今夜はずっと一緒にいるからな。」
 ご主人様の言葉を聞いて、えるは嬉しそうに「にゃあん、」と鳴いて
ご主人様の手をぺろぺろと舐めました。
しなやかなしっぽを、ゆったりと左右に振ってえるはご機嫌です。
「そうそう、プリンを買ってきてたんだった。食べるだろ?」
 答えるまでもない、といった風にえるはご主人様の手のひらに頬をすり寄せます。


 この後、えるはご主人様にたっぷり甘くておいしいプリンをベッドの上で
食べさせてもらったのですが、それはまた別の話。

 

 

元ネタ→難民スレ658「猫耳と肉球と尻尾が標準装備の猫なL」

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